俺はしがない高校教師だ。
可もなく不可もない人生。
適度に上司に揉まれ、ついモンスターペアレントと呼びたくなってしまうような熱心な親御さんの対応をして、高校生らしい羽目を外した幼稚な言動を適度に叱る。
生徒からの評判もそこそこの、一般的にも程がある人生だ。
さて、そんな俺だが、高校教師になってからできたいわば生き甲斐のようなものがある。
例えば、学校の授業が終了した放課後。
体育館倉庫の方を通りがかってみれば、緊張した面持ちで頬を赤らめ、男子生徒と向き合う女子がいたり。
あるいは、部活も終わる日の暮れ方。
部室棟を覗いてみれば、部活終わりの生徒たちに、マネージャーだろう生徒がタオルを渡している。
そういう、俺はもうとっくの昔に失った青春を眺め、密かに楽しんでいるのだ。
教師という職業上、生徒達の青春に深く関わることもある。
今日もまた、クラス内で幅を利かせる、ギャルっぽいような女子に絡まれていた。
「てかさー、センセー恋愛相談乗ってよ!」
何故、とか、四十代目前にして未だ恋人の一人もいない人間にする話じゃない、とか、色々言いたかったが飲み込んだ。
てっきり、そのギャルの恋愛相談だと思い込んでいたが、どうも違うようだ。
しばらくして、彼女はクラスの中でも大人しいような、言ってしまえば地味な女子を連れてきた。
俺に相談したいという生徒は、彼女のようだ。
「え、えっと……あの……」
割と強引に連れてこられたらしく、彼女も困惑している。
しかし、ギャルな生徒に何かを耳打ちされた瞬間、顔がぽっと赤くなった。
「あ……えっと……その……恋愛相談……ですか……」
それから彼女は、三十分ほどかけて、甘酸っぱい青春を感じさせる相談を聞かせてくれた。
当然、碌な助言はできそうにないので、話だけでも聞いておこうと耳を傾けることに徹したが。
そんなことをしていると、教師の扉が開いて、丁度彼女の意中の人が現れた。噂をすれば何とやら、である。
わたわたと慌てる彼女を横目に、例のギャルがひっそり一歩下がって俺に耳打ちしてきた。
「センセー、知ってるー?あの2人、もうとっくに両思いなのにモダモダしてんの。アイツもさっきまで友達に恋愛相談してたってー。」
チャットの画面をひらひら見せてくる彼女を横目に、2人の様子を伺う。
開いた窓から桜が舞い込んできて、2人の距離が少しだけ縮まっていた。
掃除が大変そうだとは思ったが、せっかくの春なのだ。野暮なことは言わないでおこうと、目が合ったギャルと一緒に静かにしておいた。
テーマ:春爛漫
4/11/2026, 8:47:32 AM