夜の祝福あれ

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月光の約束

夜の帳が降りると、街は静寂に包まれる。灯りの消えた公園のベンチに、ひとりの青年が座っていた。名は蒼(あおい)。彼は毎月、満月の夜にこの場所へ来る。理由は誰にも話したことがない。

月光が銀色のベールのように地面を照らすと、空気がわずかに震えた。蒼は目を閉じ、そっと呼びかける。

「来てくれるかい、月の人。」

風が優しく頬を撫でる。次の瞬間、ベンチの隣に少女が現れた。透き通るような白い肌、淡い光を纏った髪。彼女は月の世界から来た、名をルナという。

「今夜も来てくれてありがとう」とルナは微笑む。

蒼とルナは、月光の下で語り合う。日常の些細なこと、夢の話、そして互いの世界の違い。ルナの世界では、時間がゆっくり流れ、感情は光の色で表現されるという。蒼はそれを聞いて、いつも心が温かくなる。

だが、彼らの逢瀬には制限がある。月が満ちている間だけ、ルナは地上に降りられる。残された時間はあとわずか。

「次の満月には、もう来られないかもしれない」とルナが言った。

蒼は言葉を失った。彼女の瞳が、淡い青に染まっていた。悲しみの色だ。

「それでも、僕はここにいる。君が来なくても、月を見上げるよ。君がそこにいるって、信じてるから。」

ルナはそっと蒼の手に触れた。冷たく、でも確かにそこにある温もり。

「ありがとう。あなたの言葉は、私の世界にも届く。月光に乗せて。」

そして、彼女は月の光に溶けるように消えていった。

蒼は空を見上げた。満月が、静かに微笑んでいるようだった。

お題♯moonlight

10/5/2025, 12:56:38 PM