あいつが隣にいることが、おれの当たり前だった。
それこそ顔を合わせれば毎日喧嘩ばっかり。淡い唇をニヤつかせて小言ばっかり言ってくる。
そんなあいつが怪我をした。
「ったぁ!?んも…なにこれ、硬い~!」
こいつは女のくせに足癖が悪い。みんなの前では可愛こぶっているが、中身は真っ黒である。
……それを知っているのは、おれだけ。
「ふはwいつもイラつい蹴ってばっかりいるからだよ」
いつものように笑ってやった。でも、あいつからは返事がなかった。
なんだか調子が狂う。心配になって見てみれば、足首があざになっていた。
「おい、大丈夫か?手当しないと……」
そう隣に座って足元に手を伸ばすと、伸ばそうとした手を掴まれてしまう。驚いて顔を上げてみれば、顔を真っ赤にしたあいつがいた。
「っ……ばか!距離感もっと考えなさいよね!?」
あいつはそう言って痛めた右足を引きずりながらも走ってどこかへ行ってしまった。
「え……、?」
おれはしばらく固まっていたが、自分がしたことを思い返してかあっと熱くなる。
「おれは、なにを……」
それから、あいつを見ることが少なくなった。
「……寂しいな」
なぜかこころがきゅうっと締め付けられるような気持ちになり、自分が分からなくなる。
おれは、あいつの事が嫌いではなかったのか?なんで、おれは……。
あいつが隣にいなくなって、当たり前が当たり前じゃなくなって、初めて気づいた。
「ああ、おれ……」
いつのまにか、恋心を抱いていたんだ。
7/9/2023, 1:12:38 PM