【微熱】
なんだ? いつもよりも少し、変な感じだ。
頭が痛いわけでも、喉が痛いわけでもない。
風邪ではないだろう。そんな気がする。
齢20まで生きてきて、当たり前だが、風邪はたくさん引いてきた。
その経験から、このだるさと微熱はまた別のものだと判断できる。
「ハルヒロ。どうした? ぼうっとして」
大学の講義が終わったあと、前の席に座るリュウが振り向いてきた。
茶髪に染め上げているが、根元が黒くなってきている。
やはりこいつはどこか、真面目さが抜けきれていないなと、ハルヒロは思った。
「いや、とくに。別になんでもないんだけれど。うーん」
「なんだい。煮え切らないな」
リュウは潔癖症だ。とくに、ウイルスに関しては敏感である。
微熱があるかもと言えば、きっと眉間に皺を寄せるだろう。
いや、そこまで行かずとも、多分「大丈夫?」って心配してくれるだろうけど、でもやっぱり、警戒はするだろう。
「ハルヒロの状態はよくわかるよ」
意外にも、彼は知ったような顔をした。
それと同時に、リュウの後ろから、とある女子がやってきた。
彼女の名前はメイだ。
少しばかり、心臓が跳ねるような気がした。
なんだ? 緊張……してるのかな。
「やっほ。お昼食べに行こ。早くしないと、食堂混むからさ。早く早く!」
「メイ、そう慌てんな。慌てる乞食はなんとやらだ!」
メイがジタバタするのに対し、リュウはゆっくり立ち上がって言った。
「ハルヒロも早くー」
そう言って。
メイがハルヒロの腕を掴んだ。
もはや、掴むというより、組むと言った方が正しいかもしれない。
ふわりといい香りがする。
彼女は控えめに言って大変美人だ。
美人というよりも、どちらかというと、可愛い系……なのか? 小さくて、小動物のようだ。
「あれ、いつもより熱いね。顔も赤いようなー。微熱?」
メイの上目遣いが、眩しい。
目が大きいし、なんだかこう。よく分からないけれど。
思わず目を背けてしまった。
「ち、違うよ。それより早く行こう。ほらリュウも!」
「ハルヒロ。微熱の原因は、分かったかな?」
なんだよ。リュウのやつめ。
分かっていたなら、もったいぶらずに早く言って欲しかった。
ハルヒロはそそくさ歩いた。
メイは小首を傾げて、後ろから追いかけてきた。
11/26/2023, 12:46:26 PM