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あのときわたしは、無機質で冷たい印象を与える炉の入り口で、恥も忘れて大泣きしていた。白く滑らかな木の箱が仕舞われた瞬間、声に出さずにそう叫んでいた。

雪が降った次の日だった。その日は雲ひとつない快晴で、青空と一面の白が輝いていて、美しかった。
待っている間、確か茶菓子をひとつふたつ食べたと思う。合間合間は意外と平常心で、久しぶりに会う親族と世間話もした。

正直もうよく覚えていない。ずいぶん前のことだから。
だけど、逝くには早すぎた、あとに残った若く丈夫なそれらを見たとき、憑き物が取れたような気分になったのは今でも鮮明に思い出せる。
ある種の諦めでもあったのかもしれない。もうこの子は戻ってこないと。

今や思い出の一部になろうとも、あの日の内なる叫びは、ずっと胸の内側にこびりついている。
そんなことを思い出した。

10/25/2022, 2:44:52 AM