今日は何かあったのだろうか、車の修理の依頼が沢山入っていた。
社長や、同僚、社員と今日出社しているメンバーで会社の外にまで使用して修理をしていく。
休憩をするタイミングもないし、修理をするために必要な素材の減りも早くて、その点は社長が走り回っている。
このタイミングで体験者がいなくて良かったとは思う。お客さんが少ないよりはいいかもしれないが、これだけひっきりなしに依頼が来ることも珍しい。教えながら対応すると、急いでいるお客さんの迷惑になりかねない。それもクレームの一つだ。
数時間が過ぎ、流石にお客さんの波が落ち着いた頃だった。
「今日はなんなんやー!!」
社長が疲れた声で叫ぶ。他の作業も手が回らないレベルの忙しさだったので、副業持ちのメンバーは各々別の業務に向かい始めた。
色々ある中、彼女と同僚のふたりがお店番をすることになる。
先程と打って変わって、お客さんの足が落ち着きぼんやりしてしまう。
するとシャッターの音が鳴り響き、聞き慣れた声が耳に届く。
「こんばんはー!!」
声の方を見ると、恋人が仕事で使う車で入ってきていた。
「あ、いらっしゃいませ!」
嬉しくて笑顔で迎える。疲労しきっていた身体だったが、大好きな青年が来てくれたのが嬉しくて、疲れが吹き飛んだ気がした。
「任せるね。私、向こうで足りないもの作っているから何かあったら呼んで」
「うん、ありがと」
同僚が気を利かせて、離れた作業台に行った。
振り返って青年と目が合うと、お互いに笑っいあった。
「お疲れ様です。修理は久しぶりですね」
「そうだね、最近は病院でまとめてやることが多かったからさ。専属メカニックさんに見てもらいたくて!」
「任せてください!」
そう伝えると、工具を使って手際よく修理を開始した。
「もう少しで仕事を終わりにしようと思うんだけれど、いつ終わりそう?」
青年は、彼女の近くに歩み寄って、体育座りをしながら声をかける。
彼女は手を動かしながら返事をする。
「あー……今、みんな出ちゃっているから……。ワンオペにさせちゃうので、誰かが戻ったら……」
「あ、そっか。じゃあ、俺。先に帰るね」
「すみません」
「ううん、いいよー」
家でも出来そうな何気ない会話を交わしながら修理を終わらせると、彼女は請求書を用意する。いつものように「お仕事お疲れ様。先に帰ってゆっくりしてください」というメモを添えて渡した。
青年がそれを受け取ると、しっかりとメモまで確認しつつ彼女へ支払いを済ませる。
「ありがとね」
「はい、またウチで」
すれ違いざまに青年から彼女の指に、指を絡めたかと思うと、離れ難いと伝えるようにゆっくり離す。
「残りの時間も頑張ってね」
「はーい、気をつけて帰ってくださいねー!」
青年を見送ったあと、同僚の元に向かう。
突然来てくれた恋人の訪問に元気を貰いながら、残りの時間も頑張ろうと思った。
おわり
百四、突然の君の訪問。
8/28/2024, 12:58:08 PM