#26 『花束』
今日で店じまい。
端正込めて花束を造り続けて50年ちょっと。
人生最後の花束を心を込めて造り、最後の客に手渡す。
ふと、この人は誰に何のために渡すのか、好奇心が湧き出してくる。
大切な人への愛の告白に使うのか。
それとも入院している家族へのお見舞いか。
最後だし、いいだろう。
店をそそくさと閉めて、慌ててあとをつける。
着いたのは、何かイベントをやっている会場だった。
そうか!
歌い手さんへのサプライズか!
我が最後の花束の晴れ舞台としては最高の演出じゃないか。
チケットを買い、中へ入ると、熱狂した観客の中央に四角いリング。
プロレス?
すると我が最後の花束を抱えてキレイな女性が入ってくる。
…ま、最後は屈強な肉体のプロレスラーか、
…それもまたいいだろう…。
プロレスラーへ最後の花束が渡される。
……やはり何だかわからないが、感無量で思わず泣き出しそうになった………
!その瞬間。
「てめぇ、コノヤロー!!!」
我が最後の花束は……、イカつい髭面の男の顔に散った……。
………泣いた。
2/10/2023, 4:26:15 AM