いぐあな

Open App

300字小説

雪夜のおでん

「すみません」
 夜闇に浮かぶ『おでん』の文字に店の引き戸を開ける。ガヤガヤと話していた客が一瞬黙って私を見る。
「……しつこい同僚に付きまとわれて、おでん買いますから、匿って貰えますか?」
 いくらイヴにボッチで寂しいからって、私にも相手を選ぶ権利がある。
「いいですよ。お好きな席にどうぞ」

 夜闇に『おでん』の文字が浮かぶ。
「これ、美味しいですね!」
 同僚の女の声に俺は引き戸に手を掛けた。
 クリスマスボッチで寂しい癖に。誘ってやったのだから、付き合えばいいんだ。
 戸を開ける。一斉に俺を見る金色の目、目、目。俺は踵を返して逃げ出した。

「まいどあり」
 店の外は雪。おでんの入った容器を手に私はほくほくと家路についた。

お題「寂しさ」

12/19/2023, 12:08:00 PM