空にチェシャ猫のような月がかかっている。
「見てよ、水蓮。ニヤけた猫が僕たちを見ているよ」
僕の遊びに気付いた水蓮が空の月と同じような笑みを浮かべた。
「ヤツは誘惑が好きだからね」
知ったような口で水蓮が言う。
「誘惑?イタズラ好きじゃなくて?」
僕の言葉に水蓮は首を振った。
「誘惑だよ。月は何時だって人を魅了して止まないのだから」
「チェシャ猫は月の化身なわけ?」
「もしかしたら」
水蓮は意味深な笑みを浮かべて月を見上げた。
「月と言えば、彼らはどうなったのだろう」
僕の言いたいことを水蓮は直ぐに理解してくれた。
「三日月少年か…」
いちいち説明しなくても水蓮は理解してくれる。
これって凄いことだ。
「彼らは、この世界に紛れているよ。もしかしたら、あの月も。チェシャ猫のフリをした三日月少年かもしれない」
「あぁ、不遜な感じが似ているかもね」
僕の発言に水蓮は声を上げて笑った。
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「三日月少年漂流記」より水蓮と銅貨
1/9/2024, 11:40:00 AM