題 手ぶくろ
あ、ねえ、おかーさん、あそこに赤い手袋が落ちてるよ。
そう幼い娘に言われて見ると、道の真ん中に誰かの落し物なのか、手袋が1つ落ちていた。
わたしはその光景を見て、童話を思い出した。
確か、中に色んな動物さんが入っては出てしてたやつだ。
「誰か動物さんが落としていったのかもね~?!」
私がそう言うと、娘が目を輝かせた。
「動物さん!?動物さんが落としたのかなぁ、ねこさんかな、あ、大きい手袋だからくまさんかなぁ」
「ふふ、そうかもね」
なんて考えながら、本当にくまさんだったらここいら大騒ぎだわ、なんて現実的な思考になってしまう。
「もっと大きいかもっ、雪男さんとか、ドラゴンってこともあるかもっ」
娘がそう言う。
うっ、それは遭遇したくないかも。
もし遭遇したらこちらの命が危ないかも⋯
なんて、私は完全に大人になってしまったのね⋯。
そんな自分に寂しさを覚えつつ娘に答える。
「そうだね、そんな大きいのが現れたら凄いよねぇ」
「おかーさんもそう思う?じゃあさ、ここで取りに来るの待ってようよ」
なんと!
この氷点下に近い気温でそれを言える娘が凄すぎる。
「ずっと待ってたら、おかあさんもさちちゃんも風邪引いちゃうよ。この手袋は、気づきやすいように、近くの柵に掛けておこう」
「え~ドラゴンさん見たかった~」
娘は思い切り仏頂面。
何故かドラゴンさんの手袋ということにされてしまった。
「ちゃんとこうして高いとこに掛けておけば、気づいてくれるから大丈夫、さちちゃんは早くお家帰って温まろうね」
そう言うと、娘は柵に掛けられた手袋をチラとみて頷いた。
「分かった、ねぇ、おかーさん、今日買ったおしるこ、帰ったら飲んでもいーい?」
「いいよ、早くお家帰ろう」
娘の顔はホクホク嬉しそうに輝いていて、目の前のおしるこに意識が1杯みたいだ。
私はふと手袋を振り返った。
誰のかな。もしドラゴンさんのものだったのなら、1目見たかったかも、なんて、幼心を少しだけ出しながら。
12/27/2024, 12:59:13 PM