また来たのか。
いつの間にか私の隣には彼女が居る。公園の2人用ベンチに並んで座り、まるで友人のように。
だけど、余り悪い気はしなかった。私の事を聞いてこないし、一方的に話すこともしない。
本を読んでいる時は、近くの自動販売機で珈琲を買ってきたりする。―――これは少し困るが、悪い気はしない。
「最近」
彼女はポツリと呟く。
「花畑を思い出すんです」
「花畑を?」
私は彼女を見る。彼女の横顔は何処か遠くを見ていた。
「はい、夜で満月なんかも出て。幻想的ではあるんですが。何だか悲しい気持ちになるんです」
そっと目が細くなる。今にも泣いてしまいそうだ。
「何で、悲しくなるの?」
彼女は私を見て首を左右に振った。
「分かりません。只々、悲しいんです」
秋風が銀杏の葉を撫でる。小さい渦ができ、辺りを散らかす。
静かに涙が流れている。何だか言いようのない感覚を覚え、私はポケットからハンカチを差し出す。
「あぁ、ありがとうございます。ですが」
受け取ろうとしない彼女に私は溜め息を漏らしながら、頬を伝う雫を拭った。
「………え?」
「私にも分からないけど、何だか落ち着かないから」
分からない、泣いている彼女を見るのは嫌だった。
〈続〉
10/21/2025, 7:52:53 PM