良さ塩梅

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「カミナリ、怖い。」

青白い顔でそう言った姉ちゃんが、とても小さく見えた。
いや、実際、身長は150cm。僕より10歳上、でも、20cmほど小さい。

「怖くないよ。子どもじゃないんだから。」
「同じ布団で寝てもいい?」
「…えぇ。」
「ひとりは嫌。」
「いいけど…。」

シングルベッドに僕と姉ちゃん。

「電気消すよ?」
「…」

大学を中退してウチに帰ってきたのは、先週のことだ。
両親は激怒。そりゃあ、なんの相談無しに医学部を中退するなんて、怒るわなぁと。
何があったのかなんて聞けない。聞いちゃいけないと勝手に思っている。

とても偉大で、いつも僕の目標だった姉ちゃん。
でも、そこには今までのような明るさはなく、ただ何かに怯えているようだった。

「ねぇ、…ギューってして。」
「…うん。」

僕は姉ちゃんのご要望通り、ギュッと抱き寄せる。

「ドキドキ、する?」
「…ちょっとね。」
「あんたが産まれたとき、抱っこしたの覚えてる。お母さんになった気分だった。ほろほろと壊れてしまいそうな赤ちゃんだった弟に、こうやって抱っこしてもらうのもいいね。」

背中がムズムズした。それと同時に、何だかよく分からない、幸福感で胸がいっぱいになった。
そして、姉ちゃんは手で顔を覆い、僕の胸の中でしくしくと泣き始めた。

「姉ちゃんにこのくらいのことしかできないけど、ずっと味方だからね。」

カミナリと強くなる雨音にかき消されていたかもしれない。
ひどく傷ついて帰ってきた姉ちゃんを強く抱きしめた。




1/7/2023, 7:36:08 AM