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「お屋敷の手伝いをしている方にお料理とお菓子を教わってきました!ご当主様のご飯も作ってるらしいから味は料亭に引けを取らない、はず…!」

 えっへんと自慢気に胸を張る君は、教わってきたというお菓子を取り出した。
「材料が馴れない物だったから、ご飯は今度ね。おやつです」
「これなら…緑茶が合うのかな?煎れてくるよ」

「「いただきます」」
 手先の器用な国だから食事の飾り切りも素晴らしく、このお菓子も形を崩してしまうのは勿体無いと思ってしまう。目でも味わい舌でも味わう。感性の豊かな国だ。
 フォークが添えられていたからそれを使って一口大に。君は料理教室で教わったことや一緒に習いに行っていた友人の話をしては、おやつを口に運んで表情を崩している。数時間前の思い出を隠し味に自分で作ったお菓子は君が言っていた「料亭にも引けを取らない」美味しさじゃないだろうか。
 俺もそろそろ食べないと。
 パクリとひとくち。………んむ、これは?
「……不思議な食感だね」
 君の熱い視線に堪えかねて出せた台詞がそれだった。もっと気の聞いた事を言えなかったんだろうか。好き嫌いはしない主義なのに、これでは君にバレてしまう。

「…苦手そうだね」
「あまり食べないタイプのお菓子だからかな…」
「『好きじゃないのに』無理しないで。残しても私が食べるから」
「君が俺のために作ってくれたんだ。ちゃんと食べるさ」

 予定より1つ多めに作ったのは俺の為、最後まで残すことなくカケラまで食べ終えた。緑茶と相性が良いことは分かるのに君と同じ感想が持てないのは残念でならない。
「あなたが好きそうなお菓子を先生に相談してみるね」

 食べ終えた俺をくしゃくしゃと撫で回して、思い付いたように
「ね、口直しはいかが?いらない?」
 君が自分の唇にちょん、と触れる。俺が君を残すなんてあるはずないのに。
「口直しもちゃんと頂くよ」
 好きなものなら何度だって。誘われたんだ、存分に味わおう。

3/26/2023, 8:29:51 AM