シュテュンプケ

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 恋するあなたが見たかった。

 相手は誰だっていい。わたしでなくても、どこの馬の骨が相手でも……とはいかないけれど、あなたを幸せにできる人なら。

 恋の熱にうかされ、瞳を潤ませ、頬を夕陽の色に染めるあなたが見たかった。

 恋は世界を変えてくれるという。視界に宝石のかけらを散りばめてくれると。不安で眠れない夜を生み出し、同時に世界でいちばんになれるくらいの幸福感を与えてくれると。

 わたしの恋とは、恋と呼んでいいかもわからない醜い感情とは違って、あなたなら輝かしくうつくしい恋をできるはずだった。

 わたしにはあなたを幸せにしてやれなかった。生まれてきてよかった、このために生まれてきたと思わせてあげられるようなことなんてたったのひとつも、わたしは、終ぞ、あなたに、何も。

 棺の扉は閉まっていた。とても見せられるようなものではないと家族は泣き崩れた。頭から落ちたせいで、あなたの顔は復元もできないくらいにぐしゃぐしゃになってしまった。

 ……恋をして、しあわせになって、穏やかに眠るあなたが見たかった。







3/26/2023, 12:58:55 PM