名無し

Open App





「すいませんね〜、お盆限定格安此岸行きチケット、もう売り切れなんですよ〜......あ、夢枕に立てる格安チケットならまだ残ってますけど......どうします?」

いつもなら、一枚500万とかする此岸....生きているものたちが住まう世界、に行くチケットがお盆だけ1000円とかぐらいまで安くなる。

それが死んだものの住まう彼岸で暮らす幽霊たち唯一の楽しみであり、唯一の生き甲斐みたいなものであった。

それは俺もそうで、このお盆の日を今か今かと待ち侘びていた一人だった。

しかし、開店10分程度でこのザマ。
今年こそは此岸に一人残してきてしまった恋人に会いに行けるかと思ったが、今年も無理そうだ。

久々に楽しく彼女と話せると思ったのに。

でも今年は夢枕に立てるチケットが残っている。此岸にはいけないものの、少しでも顔を見れるだけマシだろう、そう思って夢枕に立てるというチケットを一枚、購入した。





          ✳︎✳︎✳︎





おれの恋人はおれが死んでも平気そうだった。

いつも通り朝ごはんを食べて、会社に赴き、同僚と喋って、帰宅して、いつも通り疲れて.....此岸の様子を見る限り、おれが生きていた頃と比べても変化がない、そう言っても差し支えないぐらい平気そうだった。

友達と笑って話していたり、後輩という男と少し、いい雰囲気になってたり、たまに上司に怒られて泣いたり。そんなふうにいつも通りだった。

だからおれと夢の中で再会した翌日、あんなに元気がなくなるなんて思いもしなかったんだ。



夢の中で再会して、喋れないから会話はできなかったけど。触れることさえできなかったけど。

少しの時間だったけど。2人で見つめ合いながら少し笑い合って、少し泣いた。

そんなことをした翌日。
ベットの上で起きた彼女は酷く生気が失われていた。

ぱちり、と瞳を開けた瞬間、彼女の目から涙が溢れていた。宝石の様に朝日に照らされて輝きながら布団へと、彼女の服へと落ちる涙。

その顔は苦痛や、後悔に塗れて彼女はとても弱ってしまっていた。

そして、その日1日そんな感じだった。

会社では凡ミス、と呼ばれる様なことを連発し、トイレ休憩の度に泣いている様だった。

そんな顔が見たかったわけじゃないのにな。

笑う、顔が見たかった。
おれが生きてた頃みたいに無邪気に、綺麗に、笑う君が見たかった。




なんだか、おれがいないほうが.......






           ✳︎✳︎✳︎





「今年はあと少し余ってますよ〜、此岸行きチケット。どうします?」

「........いや、いいです。

















もう、終わりにします」







7/15/2024, 2:26:44 PM