【雷鳴】
さっきのこと。
お母さんと喧嘩した。
もう、口を聞きたくない。
私は自室に籠もって、ベッドの上で泣きながら音楽を聴いている。
今日の昼過ぎ、私はリビングの棚を漁り、たまたまオトウサンの写真を見つけた。
オトウサンとお母さんのデート写真だろうか。
笑顔が素敵なツーショットだった。
私はビックリして、お母さんが玄関を開ける音に気づかず、ひたすら写真を眺めていた。
「ねぇ、」
私ははっとして振り返った。
お母さんが立っていた。
「何持ってるの?」
「え、えっと、」
「それ、お母さんに渡して」
「えっ…」
お母さんは私の手から写真を奪い取った。
「勝手に見ないでっ」
私はショックだった。
まるで、輪から外されるように。
「あなたには関係ない」と、言われるように。
「なんで、なんでそんなこというの…?」
私は声を震わせ、涙を堪えながら言った。
「どうしてもなの。だから見ないで。」
お母さんからその言葉が放たれた瞬間、私の中で何かが固まった。
「いっつも…」
私は声を震わせつつ、強く言った。
「いっつも、オトウサンの話避けてばっかりじゃん!」
お母さんは目を少しだけ見開き、「図星だ」という顔をした。
「なんでオトウサンのこと、話してくれないの?
なんで避けるの?」
お母さんは何も答えてくれなかった。
「なんで、逃げるの…?」
重い空気の中、お母さんはゆっくりと口を開いた。
「大人の事情ってもんなの。」
「大人の事情って何!?そうやってまた逃げるの!?もう」
「いい加減にしてっ!」
私はビクッとした。
今まで見たことのない、お母さんの恐い目。
私はその光景に、空気に耐えられなくなり、
逃げた。
「お母さんなんか…嫌いっ…」
私は自室に戻り、布団の上に横たわった。
左目から涙が流れるのが分かった。
でも、そんなのはどうでもよかった。
お母さんは、確実にオトウサンの話を避けている。
何となく分かっていたけど、そうなんだ。
私はそれが悲しかった。
辛かった。
スタンドに立てかけてあるオトウサンのギターが、寂しそうにしているのが見えた。
ああ、辛い。
私は静寂の中に響くすすり泣く声を、音楽で掻き消した。
イヤホンをつけて、YouTubeを開き一番最初に出てきた動画をタップした。
応援ソングっぽい。
明るい音楽、晴れ渡る空。
「お前はひとりじゃない」
「みんな違ってみんな良いんだ」
どっかで聴いたことのある歌詞ばっかり。
「希望はすぐそこだ」
何が希望だ。
青空の下で希望を歌わないでよ。
絶望に寄り添ってくれやしない音楽を途中で止め、耳は再び静寂に包まれた。
ああ、辛いなぁ。
静寂に包まれた部屋で私はひたすら泣いた。
視界の傍らに見える窓の外の景色は、どんよりとした灰色だった。
9/29/2024, 1:01:00 PM