三羽ゆうが

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冷たい水が足首に当たって、波が引いていく。絞り出す様なため息を吐いた後、1歩1歩踏み出した。自分の存在を否定するみたいに波が歩いた足跡を消していく。

実際、死にたくてここへ来た。でもいざ来ると、ちゃんと足が竦んでまだ生きていたいと脳みそが叫んでいた。


携帯の通知音がうるさくて、電源を切る。
早くなる鼓動が騒がしくて、深呼吸する。
真っ暗な海に今すぐ沈みたくて、足を進めていく。

胸元まで水へ浸かる頃には体の温度が分からなくなっていた。ゆっくり目を閉じて、波に身を委ねる。



少年はバサッ!と布団を蹴って勢いよく目を覚ました。手元に見える大量の薬がまたその失敗を物語っている。これで何度目だろう。早く居なくなりたいと思っている心と裏腹に効果が出なくて苦しい後遺症だけがのしかかる。

家の窓から見える広い海が、自分を忌み嫌うように音をたてた。


『夜の海』

8/15/2024, 10:16:44 AM