左手に、壁を触りながら歩く。
壁に沿って歩けば、迷うことはないし、地図も書きやすいはずだった。
悪夢だ。
真っ暗で、自分の足音と、心音以外は何も聞こえなかった。
ただ真っ暗に入り組んだ道が延々と続いていた。
自分でも何を探しているのか、分からなかった。
ただ、この暗闇から何かを探し当てないといけない、というのは意識にあった。
この暗闇の、複雑な道程を踏破して、覚えておかねばならない、ということは知っていた。
漠然とした恐怖があった。
私はこの複雑に入り組んだ真っ暗闇の道から、何かを思い出さないといけないのだった。
私の記憶は、思い出さなくてはいけない大切な何かの記憶を、真っ暗な記憶の迷路の奥の奥にしまい込んで、思い出せなくしていた。
迷路の奥にしまい込んだ、記憶の地図になるはずの大切な記憶を、私は今から取り戻さねばならないのだった。
この悪夢は、それにさえ辿り着けば、終わるのだった。
この暗闇ばかりの記憶を辿って、記憶の地図を取り戻せば、私は目覚めることができるのだ。
分かっていた。私には。
しかし、なんとなく怖かった。
自分の足音が、心音が、闇の中の誰かをせき立てていた。
私は歩く。
壁を左手に伝いながら。
自分の心音に、足音に、闇に不安を持ちながら。
永遠にも思える、延々の道程を、ずっと。
6/16/2025, 9:37:14 PM