水白

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「今日の買い出し、コレで行くよ」
どこから見つけてきたのか、古びた自転車を出して来たのは良い。
しかし、その後が良くない。

「なんでぇしょーこセンパイが漕ぐ方で、ぼくがうしろに乗る方なのぉ!?」
「私が先輩だから?」
「でもこーゆーのはぁ、男の子が女の子をうしろに乗せて、『しっかり掴まっててね』とかなんとか言ってぇ、心も体も距離が縮まるシチュエーションが少女漫画のお決まりなんだよぉ!?」
椋が大袈裟に地団駄を踏む姿を、停めた自転車のハンドルを肘置きにして硝子は鼻で笑う。
「でもそれ私たちじゃ実現不可能じゃん。相手、私だよ?」
薄笑いのまま、持っていた煙草を口元に運ぶ。
……たしかに、彼女がテンプレな少女漫画のヒロインに成り代わっても、ドキッ、キュン、等の効果音は1mmたりとも出ないだろう。
「たしかにぃしょーこセンパイにテンプレヒロインは似合わないけどぉ」
「第一、」
ずい、と短い白棒で指を差される。
「来曲、チャリ乗れるの?」
「ゔ……のっ…たことはないです…」
「そうじゃないかと思った。いいとこの坊っちゃんアイツも乗ったことないって言ってたから、来曲んちもそうかと」
「で、でもぉちょっと練習すれば多分、乗れるもん!きっと!」
「ハイハイ、後で練習付き合ってあげるから。買い出しが先」
硝子は食い下がる椋の肩を押し、本来乗る場所ではない自転車の荷台に座らせた。
「あぁ、それに」
スタンドを外しながら椋を見下ろし、煙草を持っていない方の指で顎を掬い、ニヤリと笑う。
「最近の少女漫画は、女の子がかっこいいってやつも流行りらしいよ?」

紫煙を燻らせながら平然と自転車を漕ぐ少女と、先輩の格好良さにやられて赤面する少年の姿も、ちょっと変わっているが、まさしく青い春だ。



【自転車に乗って】

8/14/2024, 2:54:32 PM