赤とんぼ

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【優しさだけできっと】


榊くんに振られて二ヶ月。
ついに縁を切った。


私と榊くんが出会ったのは去年の九月。
彼氏に浮気されて傷心中の私を慰めてくれたのが榊くんだったのだ。
あの日のあの瞬間をはっきりと覚えている。

「東さん?えっ、泣いてる?どうしたの?」

榊くんは暗くなるまで何時間もただのクラスメイトでしかない私の話を聞いてくれた。
私と一緒に怒ってくれる榊くんに、調子のいい私は彼氏と別れたばかりだというのにあっという間に恋をしてしまった。
そこから榊くんと私はどんどん仲良くなった。
よく放課後に一緒にマックに行って恋バナをして、プリクラを撮って、、榊くんとの毎日は充実していた。
榊くんは優しかった。
私が困った時、自分がどんなに忙しくても助けてくれた。放課後遊んだ後は暗いからといつも家まで送ってくれた。
そして私は調子に乗った。
あろうことか、そんな榊くんの優しさを勘違いしてしまったのだ。私のことが好きなのではないか、だなんて。

私は告白した。
振られた。

そして今に至る。
それでも榊くんは優しかった。私を嫌わなかった。
気まずいだろうに、告白なんてなかったかのように、今まで通り接してくれた。
その優しさが刺すほどに痛かった。
榊くんに優しくされる度に、「もしかして…」なんて思う馬鹿な自分がいる。そんなことはあり得ないと分かっているのに、、。
榊くんは私のために今まで通りでいてくれている。そんな榊くんにまた告白なんてことをしたら、それはつまり榊くんの気遣いを無駄にするってことなんだろう。お互いの気まずい気持ちを消そうと奮闘してくれているのに、それをまた気まずくさせるのだ。それこそ本当に榊くんに嫌われてしまう。
だから私は自分の気持ちを押し殺して、友達を続けた。

そんな日々が二ヶ月も続いた。
それでもやっぱり榊くんが好きだった。いつか私は榊くんの優しさに、きっと壊されてしまうんだと思う。
私は決心した。
榊くんと極力話さないように、榊くんを避けた。LINEもブロックした。最初こそ榊くんは私と話し合おうとしていたが、そんな日々が続くと次第に榊くんの方からも私を避けるようになった。最近は目も合わなくなった。
優しい榊くんのことだから、私が榊くんを避けてることに気づいて、話しかけずにいてくれているんだと思う。
これが全て間違ってることなんて気づいてる。
でもまた私が調子に乗らないように、榊くんの優しさに触れてしまう前に、、、こうする他なかった。

今日も窓から中庭で友達と話している榊くんを眺める。榊くんを眺めていると、まだ「好きだなぁ」なんて思ってしまっている私がいる。
その瞬間、何日ぶりかに榊くんと目があった。
私は急いで目を逸らす。目を逸らす直前、一瞬だけ、私に向かって榊くんが何か呟いた気がした。それもまた気のせいなのかもしれない。
未練を残しつつもその場を後にした。

5/2/2026, 12:10:10 PM