あめ

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パンパカパーン!
色とりどりの紙吹雪が舞い散って、満面の笑みを貼り付けた男が歓声をあげた。
「わーおっ、おめでとうこざいます!」


驚いた俺はすくみあがって笑顔を見上げた。
笑顔が笑顔で言う。
「おめでとうございます、正解ですよ!いや~、素晴らしいですね!」
「な、なんですか?」
男は派手な法被を着て、「めで鯛」と書かれたうちわを掲げている。

「大人の怪談を駆け上がる青少年へ出題する、“逃げても間違ってもハイさよ~ならクイズ!”ですよ。
正解のあなたへの賞品はこちら!どん!なんと!次の問題の解答権です!」
「えっ?えっ?」

「問題、読み上げますよ~。
次のふたつのうち、間違っているのはどちらでしょ〜か!」
男は奇妙な抑揚をつけて出題した。


①殺人は神が始めた。
②自分は殺人犯だ。


「さあ、お答えください!」
「ちょ、ちょっと待って!なんで神様か自分か二者択一で罪人を選ばないといけないんすか? どっちも間違いな設問でしょ!?」

「そんなことはありませんし、そんなことは気にする必要ないじゃないですか。あなたはご自分が間違いなく間違いだと思える正解を答えればいいんですから。
神が本当は何をしたかなんてあなたは知りようがないんだし、自分が信じる正解をお答えください」


「え、、まぁ、それはそうだけど、、。
じゃあ、間違っているのは、、②番」
「パンパカパーン!」
また紙ふぶきが舞った。法被男が「めで鯛」を振る。

「正解です!①番の『殺人は神が始めた』は正しかったのです!」
「いや、そんなことは言ってないんですよ?」
「正解者には次の解答権を!では問題です」
「もういいですよ!」
「いやいやそう言わずに。
次のふたつのうち、間違っているのはどちらでしょ〜か!」
奇妙な抑揚。


①私の父親は殺人犯だ。
②自分は殺人犯だ。


「さあ、どっち?」
「なんですかその問題は! うちの親は殺人犯なんかじゃないですよ!」
「ではあなたが殺人犯?」
「どちらも違います!」
「でも、先程と同じ論理であなたは自分以外の人が本当は何をしたかなんて分からない筈ですよ? 分かるのは自分のことだけ」
「バカバカしい!帰ります!」

「あら? やめるなんて事が出来ると思いますか? これは大人の怪談を駆け上がる青少年へ出題する、“逃げても間違ってもハイさよ~ならクイズ!”ですよ?
大人になることの恐怖を学ぶべき青少年は避けて通れないクイズなのです。
拒否権は無し、間違ったら排除される大人の世界を、ここで身を持って経験しなければなりません」


「……大人の世界ってエグいですね。。でも家族を重罪人にするわけにはいかないので」

「ですがこのクイズ、二択のうち必ずどちらかに間違いがあるのです。
あなたはお父様を本当に信じられますか?
もしくは、知らないうちに犯したかもしれない自分の罪をはっきり否定できますか?」

「また新たに恐い選択肢をぶっ込んできましたね。。
僕が無意識に誰かを殺したとでも言うんですか?」

「あなたがくしゃみしたせいで、風が吹いて桶屋が儲かって誰かが死んだかもしれません。自分の影響力なんて自分自身ではよく分からないもんですからねぇ」
「いい加減にしてください」




パンパカパーン!
盛大な音がして色とりどりの花吹雪が舞う。
不気味なクイズ会場を後にして俺は考える。
あの怪談にいつから参加していたんだろう。大人の階段登り始めた時からか? いつから登り始めてたんだ? いつ登り終わるんだ?

あの二択たちの正解はどこなんだろう。
父親は人を殺してないだろうか。俺は人を殺してないだろうか。神様は人殺しの先駆者か?
俺以外のことは何も分からないし、実は俺のことだって信用ならない。
今日はクイズを降りられたけど、大人の怪談は降りられないのか。踏み外したら地獄だけど、正解し続けるのも地獄だな。



「あれは閻魔の御前です」



めで鯛うちわが翻る。
成人式の晴れ姿。
人の数だけ色がある。
紙ふぶきが舞っている。





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【36】色とりどり






1/8/2024, 5:12:53 PM