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「私だけ」

仕事帰りにお好み焼きを食べようと家の近くの鉄板焼の店に行った。週3くらいのペースでここに通っている。本当は混ぜて焼くお好み焼きはあまり好きではない。たっぷりのキャベツに豚肉、卵、そばの入った広島のお好み焼きを食べたい。が、家の近くでお好み焼きを食べさせるのはこの店しかない。

どういうわけか今日は一番奥まった席に通される。まだ注文もしていないのに運ばれてきたのは、いつものボールにごちゃごちゃ入ったものではない。混じりけのない生地、キャベツ、卵、豚肉、そば、オタフクソース!

「お客様だけに特別サービスです」

目の前で生地が鉄板に落とされる。お玉で薄く広げ、その上にこれでもかとキャベツをのせる。ふたをして蒸し焼きされている間に、鉄板の空いているところではそばを炒めている。

キャベツの上にそばをのせ、生地を回しかける。その上に豚肉、卵を割ってのせ、ひっくり返す。じゅうじゅうという音とともに食欲が湧いてくる。これよ!これ!

ソース、青のり、踊るかつを節。ソースが鉄板で跳ねる音。しっとりしたなかにもしゃきしゃき感の残るキャベツ、そばのボリューム、かりかりの豚肉。

焼いてくれた人は新しく入ったバイトだそうで、なんと広島出身。広島のお好み焼き屋でバイト経験があり、いろんなお好み焼きを知りたいと東京で修業し、自分のお店を持つのが夢だとか。

「えっ、これからはここで、このお好み焼き出してくれるの?」

「僕がいる間は。でも今日はお客様だけにお出ししました。食べ終わったら感想聞かせてください」

今日は私だけに出してくれたの?うれしすぎる!日焼けした肌に手拭がよく似合う。

「また食べに来ますね」

疲れなど吹っ飛んだ。久々の広島のお好み焼きに、素敵な人との出会い。今日だけの特別感にひたりながら、次に行ったときには広島弁で話しかけようとか考えている。

7/19/2024, 1:14:20 AM