小高い丘にて、一人酒を飲んでいた──
端から見たら一人かもしれないが、傍にはミタマ[御霊]。姿は見えないが、美しい歌人である女を従えて月見をしている。人気のないところで密に逢瀬をしているような気分だった。
「今宵も良い月だ」
「まぁ、坊や。また口説いているのかしら?」
「坊や呼びはやめろ」
「あらあら、ごめんなさいね」
朧月のように淡く灯った光──彼女は笑った。
不思議なことに、月とこれだけで酒が美味い。
「今夜は星も輝いてとても綺麗ね。溢れて転がってきやしないかしら?」
「何を馬鹿なことを」
星を金平糖か何かと思っているのか。若干幼い子供のような彼女を鼻で笑った。
「ふふ、あなたには遊び心が足りないようね」
「どうとでも」
盃傾けると、一滴残さず飲み干した。
星は嫌いだ……群れて、煌めいていて、忙しない。
「この先、星の数程出会いはあるわ。坊やにとって、それが大切なものになりますように……」
──彼女の言葉が遠くで聞こえる。
愛おしむように、撫でるように、ひどく優しく。
遠い昔に失くした母がいたら、このような心地だっただろうか?
ああ、今宵は何やら忙しない。
心地良いのに、体が熱い。
【星が溢れる】
3/15/2024, 11:57:27 AM