お題:旅路の果てに
気が狂いそうなほどに時間が経った。
遠い昔の夢を見た。
「死ぬのは怖くないの。でも、たったひとつ。後悔がある。」
青白い顔。
今にも折れそうな体躯。
死人のような彼女は私にそう告げた。
掠れた声だった。
「私の命が潰えるはずのあの時、身代わりとなった彼を、助けたい。」
座るのがやっとのその身体は、しかし大きな意志を持ってベッドに根付いていた。
その顔を見て気づいたのだ。
ああ、きっと私は1番にはなれなかった。
彼女は心のどこかに、罪悪感と一握りの憧れを常に持ち合わせ、その想いを片時も離さずに私と過ごしていたのだ。
左回りに回る懐中時計。
空に還る雨雫。
動かぬ身体の中で目的を思い出した。
彼女の願いを叶えるのだ。
30年の月日をかけ、そのために私はここにいるのだ。
「あなたを愛していました。」
その答えが嘘であっても良い。
「行こう。」
口を動かした。
長らく言葉を発しなかった喉からは何も音は出なかった。
上から降る雨は私の頬を濡らす。
長い長い旅路の果てに。
行こう。
彼女を。
私の伴侶の願いを叶えるために……。
関連:時計の針
1/31/2023, 11:00:35 AM