「行かないで」
私の声が、伸ばした手が、よく晴れた爽やかな空に消えていく。
あなたはもう私の声なんか聞こえていないとでもいうように、一直線に走っていってしまう。あんなに私のことが大好きで、盲目的なまでにじゃれて抱き合った日を忘れちゃったの?
あなたは青空が好きで、今日はご機嫌だったじゃない。
さっきまでは二人で仲良くデートしてたのに。
こんな裏切り、ひどいよ。
「ああ、行かないで!ポチ〜!」
「あははっ!久しぶりだね〜、ポチくん」
愛するあの子は、憎き我が親友に駆け寄って、私にするようにじゃれて抱き着く。
その足元から、リードに繋がれたそちらの子が私を気遣うように寄ってきた。
「なんでよ……私よりその女の方を選ぶって言うの……?」
「相変わらず昼ドラみたいな言い草好きだね、あんた」
ただ今だけは哀れなヒロインと化した私を、愛しいあの子はきゅるんとした瞳で見つめていた。
10/24/2022, 10:15:50 AM