もか

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『どこまでも続く青い空』

放課後の、誰もいない教室で。
私たちは、他愛のない話をする。
季節は夏。
日は長く、もう夕方だというのに、真昼のように明るい。
茹だるような暑さで、ちらほら見かけた冬服の生徒も、最近はぱったりと見かけなくなった。
寒がりな私も今日は、半袖の白いシャツを着ている。
本当は目の前の彼女が着ているようなセーラー服が良かったのだが、うちの学校は性別できっぱり分かれていて、女子はセーラー服、男子はシャツと決まっている。
だから当然私は、セーラー服を着ることができない。
少し羨ましく思って、彼女の胸元で揺れるリボンをじーっと見つめていると、彼女がそれに気づき、「これ、気になる?」と指先でリボンを持ち上げて言った。
「まあね、私には着れないから」
私は苦笑を浮かべて答えた。
「じゃあ、交換する?」
え?と声が漏れた。
「いいの?」
彼女は私の顔を眺めながら言う。
「だって、あいちゃんの方が似合うでしょ。顔可愛いし、スタイルもいいもん」
私は少し照れて笑う。
「えーそうかしら」
「そうだよ」

そして私たちはお互いの制服を身につけた。
スカートを着るのは初めてじゃないけれど、足を通すとき、少しどきどきした。
彼女が着ていた服ってこともあるけど、なぜかずっと欲しかった新品の服に袖を通すときみたいな、そんな感覚がした。
二人とも着替え終わると、せーので後ろを振り返る。
そこには、王子様みたいにかっこいい彼女がいた。
スカートも似合うけど、スラックスだと足の長さが強調されていて、モデルさんみたいだった。
「やだ、すっごいかっこいい!」
私がそういうと、彼女は照れたように微笑む。
「あいちゃんも、想像してた何倍も可愛い。さすが私の彼女!」
私はどうしようもなく嬉しくなって、満面の笑みを浮かべた。
「やだー照れる〜」


ふと、彼女が私に近づいてきた。
なに?と問うと、顎を持ち上げられる。
彼女と目が合った。
綺麗な瞳に至近距離で見つめられて、心臓がばくばくと音を立てる。
そのまま、彼女に手で目を覆われた。

数秒後、柔らかいものが唇に当たる。
一瞬、時が止まった気がした。






茹だるような暑さ。
騒がしいセミの鳴き声。
目を瞑っていても見える、どこまでも続く青い空。

そして、温かい彼女の唇。


まるで、少女漫画のワンシーンのようだった。






10/24/2024, 8:55:07 AM