わをん

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『秋晴れ』

空の高くに風が吹いて雲一つもない青い空の下、よく実った稲穂が頭を垂れて黄金色のさざなみを形作っていた。稲刈りの準備で家と田んぼを行ったり来たりしていると、畔にこのあたりでは見かけないこどもがひとり座って、揺れる稲穂の様子を飽きもせず眺めているのが目についた。
「何見てるんだ?」
「稲を見ておる」
一面に揺れる稲穂は特段珍しいものでもないので変わったことを言うものだと思いながらも視線を移すと、見慣れたはずの田んぼの稲穂が嬉しがっているということがなぜだか確かにわかった。稲穂の一束ずつ、そこにできた籾の一粒ずつからなにかしらの意思を感じられ、それがどうやら嬉しいという感情のようだった。
「おぬしらが手塩にかけて育ててくれたおかげだ」
ふふ、と笑う声を最後にこどもの姿はどこかへ掻き消えてしまったが、あれは神様だったということも確かにわかった。
稲刈りが終われば秋祭りが始まる。今年の米があまりにもいい出来だったから神様が先んじて姿を見せたのかもしれないねと村の婆さまは笑っておっしゃった。

10/19/2024, 5:12:37 AM