秋は嫌いだ。
自分の誕生日は木々が衣替えをする季節。昔は、待ち遠しくて大好きだったのに、今ではため息を漏らしてしまう。
周りからも指摘を受けているように、教養はなく、顔の造形も美しくない。
こんなどしょうもない自分が生きてしまった日のような気がしてならない。
うだつが上がらない人生を行く我が身よりも、もっと生きて欲しい人、消えて欲しくない作品や記憶に身を捧げたくなっていく日々。
こうした己を蝕む自己嫌悪から、秋が嫌いになった。
そして、今年もその日はやって来る。
「おはよう」
アルバイト先でできた友人に普段通り、挨拶をする。
「おはよう!今日もよろしくね」
彼女は、私と同じ時期に入った「バイト仲間」だ。
笑顔が素敵で、器用で優しい友人。ちょっとした共通の趣味から話が広がり、次第に話が合うようになった。
「あ、そうだ!これ渡したくて」
そう言いながら、私に紙袋を渡した。中身はハーブティーが入っている箱だった。
「お誕生日おめでとう!ハーブティーなんだけど、飲めそう?」
「うん、飲めるよ」
可愛い林檎のパッケージが本当に素敵だった。
「良かった!アルバイトいつも忙しくて大変だよね。だからハーブティー飲んで少しでもリラックスできたならって」
「うん、ありがとう」
そっか。アルバイト忙しかったよね。でも、貴方がいれたから頑張れたんだよ。
「文房具好きだって聞いたからそれと悩んだんだけどね」
それ話したのかなり前じゃん。ちゃんと覚えてくれたんだ。
「でもこのハーブティー、他の香りよりも凄く爽やかで落ち着けるなーって感じがしたから」
そっか。他のハーブティーも色々みて、選んだんだね。
気づいたら、涙が次々と零れていた。
「あれ、大丈夫!?どこか痛い?」
友人は慌てたように、私の顔を覗き込む。
「ううん、違うんだ」
違うんだよ、でもこの感情を止めることはできなくて。
私は秋が嫌いだ。だけど、貴方のような人が生きているこの世界、この日々、この季節に恋をしてみようと思う。
もう1度あの季節を待ち遠しくなるほど、愛せるように。
テーマ「秋恋」
9/21/2023, 1:37:20 PM