【通り雨】
私は代わり映えしない帰路を辿っていた。
等間隔に並ぶ電灯、風に葉を揺らす街路樹、家族団欒の声が聞こえる一軒家。
私はそれぞれをぼうっと眺めながら物思いにふける。
明日も明後日もその先ずっと、今日みたいな日が続くのだろう。昨日もそうだったのだから、多分間違いない。
そんなことを考えていると、向かいから女性が歩いてきた。少し下を俯きながら、早足になっている。肩に提げたビジネスバッグをギュッと握り締めていた。
私は彼女が通れるよう、少しだけ左に身を寄せる。
彼女との距離が縮まったとき、私はあるものを目にした。
涙だ。彼女の瞳はうるうると輝き、そこから大粒の涙を落としていた。
彼女はそのまま通り過ぎる。 すれ違いざま、何かがカランカランと落ちる音が聞こえた。
咄嗟に地面に目を落とすと、足元に転がってきたそれは、リップクリーム、だろうか。私のものではないので、彼女のものだろう。
私は屈んでそれを拾い上げた。彼女は気がついていないのか、すたすたと歩みを進めてしまっていた。
引き止めるべきか否か、私は考えあぐねた。涙する女性にどう声をかけるべきなのか。今は一人になりたい気持ちかもしれないし、見知らぬ男に声をかけられたら気分を害すかもしれない。
私はどうにも消極的にその状況を捉えていたが、最後には結局足を彼女に向けて進めていた。
通り雨のような彼女。私は彼女が降らした涙に儚さを感じ、身体を突き動かされたのだった。
9/27/2023, 10:34:47 AM