NoName

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 これから友達と遊びに行くらしい彼女を玄関まで見送る。
「じゃあ行ってくるね」
「ああ、気を付けろよ。話し込みすぎて、この前みたいに遅くならないように」
「うん、分かってるよ。早く帰ってこないと、誰かさんが寂しくて泣いちゃうもんね」
「誰が泣くか。終電なくなっても知らねえぞ」
「ちゃーんと、終電までには帰ってきますよー」
 靴を履き終えた彼女が立ち上がり、にこにこと笑う。本当に分かってるのか、分かってないのか。
「それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 お互いに手を振り合いながら、彼女を送り出す。
 バタン、と閉まった扉がすぐに開いた。
「忘れものしちゃった!」
 笑いながら戻ってきた彼女は、アンクルストラップのパンプスを履いている。これを脱いで、また履くのはきっと割と手間だろう。
「しょうがねえなあ……俺が取ってくるよ。どこに何忘れたんだ」
 にこりと口角を大きく上げた彼女は俺に近付いてくると、背伸びをした。
「ここに」
 静かに触れ合った唇は、あっという間に離れる。
「行ってきまーす!」
 彼女はしたり顔で、元気良い声と俺の頬の熱を残して春の光の中へ消えて行く。
 バタン、と閉じた扉は妙に寂しく聞こえた。
 早く帰ってきて欲しい、なんて思ってねえからな。


――どこに?

3/19/2025, 2:32:21 PM