ここは暖かく、輝いている。
慎重に足をかけ、実った果実を手に取り齧る。
甘くて優しい味がする。何度食べても飽きないものだ。
突然、何かが足を引っかけた。脚がもつれ、倒れる様に落下する。
幸い、柔らかい草木がクッションになり、怪我も痛みもなかったが、果実は潰れてしまった。
犯人を探そうと眼を凝らすと、見下すような瞳があった。怒った猫の威嚇みたいにシャアシャアと声を鳴らした後、
影は姿を現した。
蛇だ。
「人が食べてる時に酷いじゃないか、何様のつもりだ」
「お前こそ、勝手に庭に入った挙句、
毎日毎日そればかり食べて、少しは謙遜の心を持てないのか!」
蛇は大きなとぐろを巻いて言った。
「何だってんだい、そう言ったって、ここには腐るほど果実があるじゃないか、
お前は蟻にも敬意を示すのか?
数え切れない、一つ一つに感謝して生きるのか?」
「そうじゃない!蟻自体は、我々が生きるために必要か?
必要なものにはどんなに数あれど、敬意を示すべきだ!」
議論は陽が出て落ちるまで続いたが、結論はでなかった。疲れ切った両者は、木陰に座り込み、話し合った。
「そもそも、なんでここにはお前しかいないのさ」
蛇は応えた。
「神様が見捨てたからだ、いや、もう神様はいないからかもしれない。
ただ、お前はここにいるべきでないということだけはわかる」
思案し、考えがまとまったので答えた。
「神様はいないんじゃなくて、楽園がいっぱいあるんだよ、ここもきっとその一つ。
お前は多分、葛藤か何かなんだ。」
話してるうちに蛇は消えていた。
それと一緒に輝きも温度も消えていた。
目から溢れそうなものを抑えながら、
そっと瞳を開いた。
【現実逃避】
2/28/2023, 7:03:42 AM