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『花束』

その花屋の店主は、客の顔を見ない。代わりに客の胸の音を聴く。

​「なるほど。少し寂しさが混じっていますね」

​店主は慣れた手つきで、見たこともない形の青い花を束ね始めた。
この店で売っているのは、本当の植物ではない。誰かの感情を花の形にしたものなのだ。

​手渡された花束は、触れると微かに体温のような温かみがあった。
​病室で眠る父の傍らに、そっとその花を置く。

するとどうだろう。
花びらが一枚、また一枚と透き通るように消え始めた。
それと同時に、父の頬にほんのりと赤みが差してゆく。

​「……来ていたのか」

​父がうっすらと目を開け、私の手を握った。
花束はもう、跡形もない。

​あの店主は言っていた。
「形がなくなる時、一番大切なものが残りますよ」

2/10/2026, 8:43:27 AM