kamo

Open App

24 モンシロチョウ   


モンシロチョウは好きだけど、青虫は嫌いなの

それが母の口癖でした。
健康のために穴だらけの無農薬キャベツを買ってきては、うぞうぞと出てくる青虫をそれはそれは嫌な顔でティッシュで潰して捨てていた。私はそのキャベツが嫌いでした。まるで虫たちに栄養を吸われてしまったように、苦いだけのスカスカした味しかしなかった。それを大地の恵みの味だという母親とは、気が合わないとずっと感じていたんです。私の容姿が良くないことをよく「大切なのは中身よ」と慰めてくれましたが、あのキャベツは見た目ばかりでなく、中身である味さえも悪かった。だいいち、お母さんはモンシロチョウが好きなのにアオムシは潰すじゃないか。それは見た目が良くないからではないの?子供なりに、そんなことを考えてもいたんです。


私は20歳のころ、就活に備えて整形をしました。
美しくなった自分を鏡で見るのは楽しく、実際に大手に内定も取れた。母に? 言いませんでした。事後報告です。結果としては大変に泣いて暴れて「軽薄」と罵られ、その頃から、彼女とは疎遠になっています。母が所属していた「大自然の免疫と健康食の会」も、正直狂信者の集まりのようにしか見えませんでしたし、距離を置きたかった。
ですから、母の死についても何も知りません。明らかに流行りの感染症の症状がでているのに、海草や漢方薬を煎じたお風呂につかって、そのまま亡くなって体が溶けた。よくある話…ではないのかもしれませんが、自然の恵みへの信仰に殉じすぎる人というのは、いつの世も一定数いるものでしょう。溶けた母の体は、状態がひどすぎて確認ができませんでした。青虫とどちらが美しかったのでしょうね? などと言ってはあんまりですが、私はあまり、母がかわいそうだとも思わないんです。私が鏡の中の美しくなった自分を見て感じるのと同じ幸福感を、お風呂でゆだりながら、母も感じていたのではないかと思うからです。

何に幸せを感じるどう生きるかなんて、母娘であっても重ならないものですよ。私は、そんなものだと思います。ただ今でも、公園などでひらひらと飛んでいるモンシロチョウを見ると、母の口癖を思い出すんです。完全な他人には絶対になれない。これもまた「そんなもの」だと思います。母については、以上です。

5/11/2023, 9:25:50 AM