白糸馨月

Open App

お題『誰にも言えない秘密』

 学校から帰ると自分の部屋に戻って制服を脱いで、元の姿に戻る。
 私の本当の姿は地球人が言う『アメーバ』のような見た目だ。ちなみに高校生で一人暮らしをしているのは、世間ではすごいことらしい。「もう自立しててすごい」って。
 どうやら日本の地球人は、大人と子供のはざまの姿をしていても、基本的には親と一緒に暮らす家へ帰り、親に世話をして貰うのを当たり前だと思っているから驚きだ。
 
 私は机に備え付けられたボタンを押す。すると、起動音がフォンッと鳴って、その場で半透明な青いモニターとキーボードを空中に浮かび上がらせた。

「さて、報告書書くか」

 私は体から触手を伸ばすと、キーボードに文字を打ち込む。
 私はいわゆる特派員で、元いた星が隣国の星に乗っ取られ住む場所を失ったから、こうして移住先として見繕っている星の調査をしているのだ。もしそこの星がよければ、移住命令が出るだろう。
 私は特派員の中では一番若い。ゆえに割り当てられたのは高校生だった。とはいえ、派遣された場所は繁華街で知られているところではなく、住宅街である。そこで私は一般的な若者がどういう生活をしているのか体感し、日々それを報告書にまとめて上司に報告している。
 時々同じく地球の日本に派遣されてる年配の仲間もいるが、こちらは『残業』だの『上司の機嫌を取る飲み会』だのというワードが出てきてなんだか大変そうだ。
 今の私は高校で友達ができて、喫茶店でパフェをつつきつつくだらない会話をするのが楽しい。
 だが、一方で思う。今のこの姿を見られたら友達関係が壊れてしまうだろう、と。だから、私の素性も本当の姿も、誰にも言えない秘密なのだ。

6/6/2024, 3:55:26 AM