脚のない葦

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「嗚呼、こんな夜とはさよならしよう」
君は笑いながらそう言った。手を取り合って夜の公園で遊んだあの時も、泣きながら映画の感想を言い合った帰路も。全てはあなたがいたからだった。
「僕は気がついたんだ、ここは夢の中だって」
ええ、そうでしょう。あなたは布団から一歩も出ていません、そこで私と愛を囁き合ったんです。
「ねぇ、此処でずっと夢を見ていたくはありませんか」
私は意地悪に笑います、だってあなたのタイプは猫みたいな人だから。
「見ていたいさ、でも、ここで君を愛したところで」
苦しそうに俯き、深い葛藤が唇を震わせます。
「言っていいですよ、どうか私を目覚めさせて」
あなたは意を決したように顔を上げました、乱暴な声色は決意よりも、なるようになれという乱雑さを大いに感じました。
「僕は、僕を好きになれないから」
あなたはそれだけ言って、脱兎の如く逃げ出しました。
私は、霧のたちこめる空間に一人取り残されます。
あなたに愛されるように創られた体が、ありもしない心が。
寂しさ、なんてものを感じたように思えました。
これからあなたは、私を捨てて現実を愛するのです。
それでも、私はあなたが布団に横たわる時、静かに見守りましょう。魘されるときは心配し、可能ならあなたの前に姿を見せましょう。
「……よい一日を」
あなたの目覚めが、素晴らしいものであることを願っています。

7/16/2023, 9:41:25 AM