昔、同級生の彼からもらった手紙があった。
中身は随分とあっさりとしたもので、真っ白な紙には「ありさ」と書いてあった。
ありさ、私の名前。
彼が何を意図して書いたのか、未だに理解出来なくて、私はずっとその手紙について考えていた。
学校へ行っても、デパートに行っても、ご飯を食べている時、入浴中、寝る時でさえ、その「ありさ」の意味を考えていた。
とうとうその意味を探るのを諦めたのは、手紙を目にした一週間後。
私はそれから手紙に見向きもしなかった。
彼の存在ですら、日に日に忘れていく。
ついに一年、五年、そして十年。
私は大人になった。
同窓会に出席するような時期になって、私はそれで漸く、あの手紙を思い出した。
同級生の彼、転校してしまってから連絡手段が何も無くて、時々話していたような仲だったけど、手紙のこと覚えているだろうか。
同窓会に行くと、彼はいなかった。
彼のことに聞くと、誰も知らないと呟く。
転校してしまったから、誰も住所を知らなかったのだろうか。
にしても、彼にあの「ありさ」の意味を聞けなくて、残念がっていた時。
私は手紙を取りだした。
「ありさ」
それにしても、世界でひとつの、下手な字だな。
9/9/2023, 2:10:15 PM