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 ポチャン…
最近は、雨が多く憂鬱だ。水玉模様の傘をさしながらたくさんの水たまりを避けるように俯いて歩く。
「はぁ、」
一言ため息を付き、また俯いて歩く。それの繰り返し。今週は何もかもが駄目だった。仕事でも上司に怒られるし、なんなら後輩からも馬鹿にされ、トラックに水をかけられ服はびしょびしょ。何もいいことがなかったこの一週間に思わず笑いがこみ上げてくる。
「ハハッ…」
乾いた笑い声が雨の音にかき消され、まるで私はこの世界にいないようなそんな風に思えた。
ふと、傘の外の景色を見ようと前を向くと私が全然知らない場所についていた。焦る私はどうすることも出来なくてただ、真っ直ぐ歩く。どうせ、私は何にもできない馬鹿なんだから…と薄く笑いながら前を進む。
さっきから坂道ばかりだ。
「これは、はぁはぁ、山だな…」
スーツで来るのには結構キツイ場所だったが、私はめげずに登り続けた。
山頂につくときにはもう息が苦しくて仕方がなかったが、それと同時に達成感で嬉しかった。
でも、この山には先客が居た。
その人は、黄色い傘でまるフチのメガネ、それに加えてきれいな横顔。その人の事を遠目から見惚れていると、気付かれてしまい目があった。でもなぜか、目が離せなかった。その人が私にニコッと微笑み、自分の横に来いと優しく手招きをするので小走りで向かう。少しだけ、相手と距離を空けて止まった。私は、
「なんで雨なのに、こんな山に居るんですか?」そう聞いた。すると彼は微笑みながら
「この山の山頂で見る景色ってとてもきれいなんですよ。自分の心を晴やかにしてくれるんです。」と。
でも…
「雨ですよ?」と言えば、彼は
「まぁ、見てて。」そう優しく言いながら、目の前の景色に指を指す。
すると、今までの雨が嘘かのように止みどんよりとした雲の隙間からきれいな光が溢れてくる。その光は、小さく見える民家、学校、駅、すべてのものに優しく光り輝いていた。この景色を見て私は
「わぁ…。綺麗。」思わず声に出てしまった。私の反応を見た彼は傘を閉じながら
「ね?そうでしょ?」とニコニコしながら言うので私は
大きく頷いた。
この景色をもっと大きく見たいと思い、傘を閉じた。今までの憂鬱が何でもなかった様に思わせてくれた。
彼は
「僕もつい最近この景色を見つけたんだ。」と微笑みながら照れ臭そうに言う姿に私は胸がドキッと高鳴った。

私の傘から、雫がポチャンと音をたてながら落ちる。
私は、目の前で虹を見つけてはしゃぐ彼を見て恋に落ちたのだと知った。

4/21/2024, 12:39:03 PM