「⋯⋯好きな色とかあるの?」
僕のことを探ろうとしてるのか、質問攻めにしてきた彼女を適当な答えで否してたら、怪訝そうな顔でそう言われた。
「あるよ。黒とか白とか⋯⋯⋯⋯ピンクとかね」
僕は正直に答えた。敵である彼女に有利となる質問はなるべく答えないようにしてたが、まぁ好きな色くらいならいいだろうと思ったのだ。
「⋯⋯⋯⋯なんか理由とかあるの?」
「そうだね、黒や白はやっぱりピアノの鍵盤の色だから。ピンクは⋯⋯綺麗だからかな」
「ふーん」
自分から振ったくせにやけに興味無さそうな声を出されると、やっぱり少しイラつくもので。
「⋯⋯きみは?」
そんなふうに少しだけ刺々しく聞くと、彼女は少しばかり考えたあと言った。
「⋯⋯⋯⋯ないかも」
「ない?」
「ん」
好きな色がない、なんて奴に会ったことはなくて、だからこそ僕はオウム返しにしてしまったけど、彼女は平然とした顔で応じた。
「⋯⋯ないのか」
僕は正直に答えたのに、彼女は隠そうとするのか、なんて思いが浮かんで少しばかりムッとした。
あれからだいぶすぎて、僕と彼女は仲良くなって。彼女のことも少しばかり分かってきて。
だからもう一度聞いてみようと、いつもの演奏会が終わった後に彼女に尋ねてみた。
「権力者は好きな色とかあるかい?」
彼女はあの時と同じような顔で考えた後、困ったような顔で言った。
「ないかも」
6/21/2024, 4:30:35 PM