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とある森の中

2人の旅人が並んで歩いていた

1人は左手に杖を持った老爺
1人は紺色のローブを纏った15歳くらいの少女


少女が木々で覆い茂っていた先に
太陽の陽がキラキラと光って
明るい場所が見えたところで走り出す


足を止めた場所は
大きめの湖
澄んでいて飲水でもなりそうなくらいなキレイな水面

少女はしゃがみ込んで湖を見つめると瞳が微かに光る
パッと顔を上げれば
後ろからゆっくりとやってきた老爺に向かって言う


「ここで間違いないみたい」

少女の言葉にやっとかと頷いた老爺は
立ち上がって手を握る少女に引かれて
湖のほとりに腰を下ろす


この湖はケガの治癒効果のある湖だと
次の国に向かう途中で耳にした

運悪く魔物と遭遇したことで
老爺が負傷してしまったために少しばかりの情報頼りに
やっとの事で訪れることが出来たわけだ


「悪いな、大した怪我でもないのに」
「ううん」


老爺らしくない口調、思ったよりも若く聞こえる老爺の声
少女が袖を上げて傷のある腕を湖に沈める

徐々に傷は癒え、あともすっかり無くなったことを確認してから
腕を湖からあげる


「もう少し休んでいこう」


お腹も空いたしと微笑む少女

老爺の隣に並んで座り
カバンに入れていた包みを取りだして
包みを開けてからパンを老爺へと差し出す


「はい、お兄ちゃん」
「ありがとう」


お兄ちゃんと呼ばれた老爺は差し出されたパンを受け取り
キラキラと光る湖を見ながら1口かじる

この老爺は少女の実の兄だ

二人は自国が滅亡したことにより
王であった父親の手によって
逃げることが出来たが

途中で出会った魔族に兄は呪いを受け
遠くまで来た頃には
今の老爺の姿になってしまっていたのだ


「―お兄ちゃん、これからの国ってどういう所だっけ」
「港があって、色んな船が出入りしてる国。貿易にさんだとか」
「ふーん」

興味のなさそうな返事


呪いを受けた兄とその妹
この先何が起こるのか
分からない


たった二人だけの旅は
これからだ



[二人ぼっち] ―「2人きりの旅」より―

3/21/2024, 5:08:20 PM