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夫婦





祖母が亡くなった。
元気な人で、直前まで本当に元気で、人々は口を揃えて「ああいういき方がいいね」と言った。生き方なのか逝き方なのか、あるいは両方なのか。

けれど本人はそろそろだということがわかっていたのかもしれない。
決してきれい好きとは言えない人だったけれど、片付けに訪れた祖母の家は既にすっきりと片付いていた。
生活に必要なものが置かれている簡素な家の中にはまだ、微かな温もりが残っているような気がする。

大きな食器棚の中には自分用の茶碗、汁椀、幾つかの皿。そして客人用なのか湯呑みとティーカップセットが二客。
ふと棚奥になにか白いものが見えて手を伸ばす。

白い布に包まれたそれは、恐らくもとは盃だったのだろうという形状で、その半分だった。
朱塗りの盃──にはっとする。
わたしはこのもう半分を見たことがある。

箪笥の左、上から三段目。
同じく白い布に包まれた朱塗りの盃の片割れがある。
二つを合わせるときっちりと合う。
祖父と祖母二人の生活の始まりと終わりが、何事もなかったかのようにぴったりと重なる。

二人が眠る墓に金継をした盃を共に納めた。
きっといつかどこかで、少女と青年が酒を飲むだろう。


11/23/2024, 12:23:44 AM