りおち

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「またね」という言葉が、昔から大嫌いだった。
 この言葉には「間もなく会いましょう」という意味が込められ、望んでもいない約束をさせられているかのような薄ら寒さを私に与える。

 今朝、十年ぶりに故郷の駅に降り立った時、当時お喋りな人だと思っていた近所の女に遭遇した。女は私を見ると、あの頃と同じように笑顔を振りまき、あの頃よりしわがれた声でひとしきり喋った。そして、「またね」と言った。私の名前など、すっかり忘れていたのにである。

 十年前、この町から出ていく時も、女は同じことを言った。あの時は、二度と戻ってやるかと思っていた。母の葬式を終え、家も処分し、切れる縁は全て切った。その最後の縁が、あの女の言葉だった。

 そして、私は今、この駅に立っている。仕事の都合という体裁の良い理由をつけて、ここに立っている。
 もう来ません、とキッパリ言えない私は、たった三文字の言葉にすっかり呪われてしまったらしい。

8/6/2025, 11:54:08 AM