紅月 琥珀

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 人は不幸を見つけるのは得意だけど、幸福を見つけるのは苦手に見える。
 かく言う私の同居人も、よく不幸を語っては嘆いていた。その度に私は彼女を慰め、寝付くまで傍で話を聞いている。

 人はよく不幸を嘆くけど、案外⋯⋯幸せなんてその辺に転がっているものだと私は思う。
 例えば、ふと見上げた空が雲一つない綺麗な青空だったとか。或いは、不規則に奏でられる雨音だとか。
 そういう何気ない日々の営みにこそ、幸せは潜んでいて⋯⋯当たり前に過ぎ去ってしまうからこそ、案外気づけないのかもしれない。

 好きな物を食べるとか、欲しかった物が意外な場所で手に入ったとか。
 道端を歩いていて綺麗な花を見つけたり、たまたま見上げた空に虹がかかっていたり。
 幸せは大きなモノじゃなくて、そういう小さなモノが降り積もって大きくなっていく―――それが今まで生きてきた中で得た私の答えだ。
 だから、気に病む事なんてないんだよ。

 酸いも甘いも、全ては自身の幸福のために降り積もるモノなのだと思えば良い。
 幸せだけだとそれが本当にそうなのか、わからなくなる。でも、不幸ばかりでも辛くなるから―――不幸は幸せを感じ取る為のスパイスだと思えば良いんだよ。
 そうして大きくなった幸せに気付けた時、あの日あの時の不幸は今日この日の為にあったんだと納得出来る日が来るから。
 同居人よ、どうかその日が来るまであなたは、あなたらしく生きなさい。
 そうしていつか、あなたと幸せを分かち合える人に出会えたら、その人を大切にしてあげてね。

 ◇ ◇ ◇

 それは突然の別れだった。
 辛い時も楽しい時もずっと一緒に居てくれたあの子が、虹の橋を渡ってしまったのだ。
 突然の事故で、医師たちの努力も虚しく彼岸へと旅立ってしまったあの子。
 それが悲しくて苦しくて、泣き続けていたらいつの間にか寝ていたようだ。
 その時に見た夢はあの子の視点で見ている私。
 ずっと寄り添ってそんな風に語りかけてくれてたんだね。
 ありがとう、直ぐには立ち直れないと思うけど⋯⋯きっとあなたの願う通りの私になってみせるから。
 私がそっちに行った時は、また一緒に遊んでね。


3/28/2025, 1:57:49 PM