かたいなか

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「4ヶ月このアプリで投稿し続けて、貰うハートの量が作品ごとに波あってさ。『ハートの多い投稿の傾向調べりゃ読者のニーズ分かるんじゃね?』とか考えたり、『ガチでいっぺん呟きのアンケートみたいに何読みたいか聞いてみてぇ』とか思ったりしてるわ」
俺だけ、なのか、俺だけじゃない、なのかは、それこそ集計取れねぇから分からんけど。某所在住物書きはカキリ小首を鳴らし、呟く。
「あとアレよ。『完全に書けねぇお題が来たとき、お題ガン無視でハナシ書いちまっても良いかな』とか。絶対俺だけじゃないよな。……だよな?」
ところで俺はエモ系ネタ不得意だけど、他の皆様は、どういうお題が苦手なんだろ。物書きはふと疑問に思ったが、知る方法も無く、結局深追いをやめた。

――――――

最近最近の都内某所。休日やリモートワークの空き時間を使って、かつての恋人を探すひとがおりました。
毎度お馴染みの、「人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者」の方ではありません。
その捻くれ者の心を、ズッタズタのボロッボロに傷つけた、相手方のおはなしです。
名字を、「加元(かもと)」といいます。モトカレ・モトカノの、かもと。単純ですね。
アクセサリーやファッションとしての恋、恋するための恋が欲しくて欲しくて、最初の恋が破れた後すぐ捻くれ者に乗り換えたものの、
己の理想からかけ離れている捻くれ者を、「地雷」、「解釈不一致」、「頭おかしい」と、呟きアプリの別垢でこき下ろし、それがバレた自業自得で縁切れた。
これは、そんな加元のおはなしです。

以降3回新しい恋を、手に入れたのは良いものの、
全5回の恋の中で、一番誠実で真面目で、一番自分にすべてを捧げてくれたのが、当時散々にディスった筈の、「捻くれ者」でありました。
雪国の、田舎出身という同い年。写真など一枚も撮っていません。だって自分があげたピアスもリングも、何も付けてくれなかったから。
連絡手段も居住地も、電話番号も仕事場も。縁という縁、手がかりという手がかりの全部が消え、文字通りこつ然と姿を消したそのひとが、
「この名前は都内に居ない」と、頼った探偵に調査を打ち切られたそのひとが、
なんだかんだで一番無難で、一番安牌だったのです。
加元はそんな捻くれ者が、どうしても再度欲しくなり、ずっと、ずっと探し続けておりました。

「どこにいるの」
暑くて湿度ある都内を、加元は今日も、仕事の合間に歩きます。
捻くれ者は、まだ都内に居る。加元には絶対的な自信がありました。
あのひとはすぐ田舎に引っ込むひとではないから。
「どうして、顔を見せてくれないの」
捻くれ者は、確実にまだ自分を愛している。加元はそれも信じていました。
誰より一途で誠実だから。縁切ってそれきりハイさようならを、スパっとできる人じゃないから。
「また会いたい。また、よりを戻したいのに」
自分の呟きが捻くれ者を、その心と魂を、傷つけ蝕み裂き壊したのに。わがままさんですね。

「会いたいのは、そっちだって、一緒でしょ」
自分だけじゃない。自分だけが恋しい筈がない。
会いたい、あいたい。自分を振った二度目の恋人の、顔を探して、加元は今日も歩いて歩いて、
「あっ、」
ふと、雑踏やかましい道の先に、ひとつの視線を見つけました。

「附子山さん……?」
チラリとしか見えず、すぐ後ろを向いて走り去ってしまったそのひとは、
確かに、たしかに加元だけを、一点にみつめていたように、見えたのでした。

7/18/2023, 10:00:18 AM