しとしとと小雨が降っていた。
傘をささずに二人で大きめの石が置いてある場所に立っていた。
二人の周囲にも木の枠で囲った石が等間隔で置いてあった。
「ねえ、みんな死んじゃうね」
「ああ」
お墓の前で立っていた私たちの隙間を梅雨の湿気を含んだぬるい風が吹く。
「最近ね、夢では泣いているのに、現実では泣けないの」
「ああ」
「目が乾いてしまったみたい」
私は苦笑しながらお墓を見つめる。
お墓は少し街を見渡せる丘にあり、その街は空に続く黒煙と大切な人達の家や建物の残骸で目を逸らしたくなる。
私たちの大切な人達がいた街、そして奪われつつある街をずっと見ていることは心がぎゅっとして、ざわざわして無理だった。
「彰人くん、私たちは生き延びれるのかな?」
一番、不毛な言葉を隣に立つぐんぐんと背が伸びつつある彰人くんを見上げながら問いかける。
「綾、俺は変えるぞ」
たった一言つぶやいた言葉に首を傾げる。
「過去は変えられねえ、でも今と未来は分かんねえだろ」
彰人くんは握りしめていた拳をふっと緩めて、手のひらを見つめる。
その横顔は私が知らない彰人くんで、だいぶ大人びて見えた。
燃えるような瞳と食いしばった口元が彰人くんらしさがあったが、彰人くんの力強い言葉に私の心の中で火が灯る。
(これは希望なのかな)
私はそうこっそりと心の中で思いながら、まつ毛を瞬きながらさっきまで直視できなかった崩壊しつつある街を見る。
今日は曇天の梅雨模様だった。
国によって簡易的に作られたお墓はひっそりと寂しかった。
そしてそこには大切な人たちの遺体が眠っていると言いたいが五体満足の者は少なく、一部の者がほとんどだった。
隣にいる彰人くんのごうごうとした瞳は街の上空を支配する侵略者達に向けられていた。
そこには見たことのない無機質な物体が橙色に染まる空に浮かんでいて、戦闘機との戦いが繰り広げられていた。
「俺たちの街なんだ」
短い言葉だったが、私も、
「うん」
と応えた。
6/2/2024, 12:32:50 AM