よ、旦那しけたツラしてんな!
それじゃいい酒も不味くなっちまうぞ。
スマイル、スマイル。
ん、人生がうまくいかなくて辛い?
彼女もいなくてお金もない?
そっか、お前も苦労したんだな。
まあ飲めよ、俺のおごりだ。
今日は何もかも忘れて、パーッと飲もうぜ。
かんぱーい!
ふう、やっぱりこの国のビールは最高だぜ。
え?
この辺りの人間に見えないって。
そうだよ、俺外国人だもの。
世界中を旅してんのさ。
俺、いろんな場所を回るのが好きでな。
ああ、別に観光が好きなわけじゃないんだ。
ただいろんな場所に行くのが好きなだけ。
その土地の文化とか歴史とか全く興味がない。
酒だけは、少し興味あるかな。
そんな感じだから、目的地についてすぐに『あーここまで大変だった、さあ次の場所にでかけるか』ってなる。
『旅でどこかへ行く』より、『旅をしている』っていうのが大事なタイプなんだよ、俺。
ん?
どんな場所に行ったのかって?
俺の話に興味あんのか?
どこか住みやすい土地はないか?
ああ、お前辛いって言ってたもんな。
どこかに行きたくもなるか……
だがそれは教えられん。
だって俺、同じところにいないんだよ。
住み心地なんて知るわけがない。
おい、笑うところだぞ。
でもそうだなあ。
そういう話なら『理想郷』とかどうだ?
なんでもあるという、あの『理想郷』
ちょうどこの国にあるし、行ってみるか?
……信じてないな、その目。
でもあるんだなあ、理想郷は。
なんなら行ってきたばっかりだよ。
数週間前な、酒を飲んでいると近くの席で飲んだくれが話していたんだ。
『理想郷は存在する』って。
耳を疑ったね。
いくら酒を飲んでいるとはいえ、おいそれと『理想郷』なんて言葉出てこないよ。
だからその理想郷とやらに興味を持ったの。
もちろん普段はそんなの信じてないよ。
でも酔っぱらってたのもあるんだろうね。
面白そうだから「酒を奢る」と言って詳しく話を聞いたんだ。
それで具体的な場所を聞き出して、旅に出ることにした。
もちろん本気であるとは思ってない。
けど、たまにはそれでもいいかなと思ってね。
空振り覚悟で旅立った。
で結論を言うとな……
あったんだ。
理想郷はあったんだよ。
見渡す限りたくさんの花が咲き乱れてた。
街も綺麗でチリ一つ落ちてない。
通りは活気があって、そこら中からいい匂いがしてお腹を刺激されたりとか。
行き交う人々もみんな笑顔だし、『理想郷』はあったんだって確信したね。
そんな都合のいいものがあるはずがないって?
まあ、そうだな。
分かるよ、その気持ち。
でも、俺は見たんだ。
理想郷をね。
君も行って確かめればいいさ。
え?
住み心地?
知らないよ、すぐ帰って来たからね。
なんだよ、その顔。
なんで『理想郷』に長居しなかったかって?
普通住むだろって?
おいおい、俺の話を聞いてたか?
俺は旅が好きなんだ。
理想郷なんて興味ないよ
11/1/2024, 2:42:55 PM