いのり

Open App

「繊細な花」

 私は娘に「優花」と名前をつけた。気持ちとしては、つけたというより、与えたというほうがしっくりくるのだが。
 夫は、その責任の重さからか、女の子だし決めて欲しいと言うので、幾つかの候補をだして夫も気にいったのが「優花」だった。静かに眠る可愛らしい娘にぴったりだと思った。

 優花はすくすく成長したが、私にとって初めての育児は心配だらけだった。
 優花はとてもよく寝る子で、泣いてもすぐに泣き止んだ。3、4時間寝ているので、何度も顔を覗き込むことがよくあった。1歳半になっても言葉が出なかったし、呼んでも反応がなかった。

 健康診断で、自閉症の疑いがあると言われた。
 そのうち、同じ年齢の子達とは明らかに発達の遅れが目立つようになった。
 幸い夫の協力もあり、私は育休中に仕事を辞め、小児科の言語外来や発達障害の子と親のためのサークルに通い始めた。
 
 もうすぐ特別支援学校に入学するという頃の優花は、少しずつ言葉を話すようになってきたが、話しかけても的はずれな言葉が返ってきたり、目を合わせることもなく、優花なりの世界の中にいるように思えた。

 入学式の日、学校にも入学式会場の体育館にも、パンジー、ビオラ、デイジー、桜草などの花のプランターがたくさん置かれていた。学校の中学部の生徒達が職業実習で育てたとのことだった。
 優花は玄関前でも、体育館でもプランターの前にしゃがみこみ、何か歌を歌いながら、しばらく花を見ていた。
 式が始まったが、娘は時々立ち上がり、プランターの花を見に行った。そして大声で叫んでいる子もいれば、手を叩いている子も、やはりじっと座っていられず歩きまわる子もいる。
 先生達は特に声をかけることはしなかった。さすがにこの子達は緊張しやすく繊細であることを知っているし、皆の障害の特性を受け入れてくれているのだ。

 私は子ども達も、その親も皆が否定されずにいることを感謝した。
そして心の中で呟いた。
「大丈夫、大丈夫」と。
 それぞれの色で咲くプランターの花が、とてもきれいに思えた。

6/26/2024, 6:33:17 AM