ぎゅう、と君に抱きすくめられる。誰よりも優しい君。誰よりも愛しい君。
――そんな君に抱きしめられるのが、僕は本当に嫌だった。
【棘ごとそっと包み込んで】
「なんで嫌そうな顔するの」
心を読んだみたいに、君は言う。
「……君が」
「ん?」
「君が僕にこうするのは、僕じゃなくて、世界のためじゃないか」
「どういうこと?」
僕のちょっと下で君の頭が動いて、首を傾げたのだとわかる。
「例えば、苦い薬をオブラートでそっと包み込むみたいに。例えば、飛び出た針金で怪我をしないよう、テープをぐるぐる巻くみたいに。君が僕にしているのは、つまりそういうことでしょ?」
オブラートで包んで飲めば、苦い薬は人間を害することができなくなる。棘だらけの僕を綿で包めば、僕は世界を傷つけることができなくなる。きっと、それだけなのだ。
「違うよ」
密着しすぎてわからない表情は、でも多分、笑っていた。
「棘が刺さって抜けなくなれば、君は私から逃げられないでしょう? 私は力が弱くて、そっと包み込むことはできても、放さないよう締め付けることはできないから」
……「本当に嫌」とまで思っておいて、君のことを力ずくで振り払えない自分に、今更気がついた。
5/24/2025, 6:52:58 AM