鶴づれ

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蝶よ花よ


 一国の姫として、生を受けました。
 優しいお父様とお母様。かっこいいお兄様に、仲良しの侍女たち。わたくしを守ってくれる人でいっぱいの宮殿で、まさに蝶よ花よと育てられました。これから先も、そうして幸せに暮らせると信じて疑わずに。

 十五歳の誕生日を、少し過ぎたある日。
 国王であらせられるお父様に、家族そろって呼ばれました。とても大切なお話があるのだとか。
「西の海を渡った帝国に、嫁いでくれないか」
 家族が席に着くなり、わたくしに、お父様は仰ったのです。お父様はただ「帝国」と表現されましたが、そこは我が国を蔑み、憎しみ合い、幾度となく戦争を繰り返してきた国です。
「長く続いた戦争で両国共に疲弊し、和睦を結ぶことになったんだ。申し訳ない。どうか受け入れてくれ」
 お父様は初めて、わたくしに頭を下げられました。
「私が不甲斐ないせいで…、すまない」
 お兄様も、悲しそうに目を伏せられます。
「あなただけに辛い役目を押し付けて…。本当にごめんなさい」
 お母様は、一粒の涙を流されました。
 えぇ。無知なわたくしにだって分かります。帝国に一人嫁げば、わたくしを蔑み、憎む人たちでいっぱいでしょう。家族のように、わたくしを大切にしてくださる人などいないのです。
 ですが、わたくしは一国の姫。
「分かりました、お父様。わたくし、帝国に嫁ぎます」
 嫌だ、などと我儘を言っていい訳などないのです。
「皆様、そのようなお顔をしないでくださいませ。お嫁入りとは、幸せなことでしょう?」
 涙が零れそうなのを堪え、微笑んで見せました。
 蝶よ花よと育てていただいた子供時代は、これで終わりですね。

8/8/2023, 12:18:57 PM