「駄目だって分からなかったの?」
耳に入ってくる冷たい声。
声の方を見ると中居大輝(なかいだいき)君がいた。
大輝君の前には泣きじゃくっている桜井春野(さくらいはるの)ちゃんと、そっぽを向いている小林蒼(こばやしあお)君がいる。
「だ、大輝君、やめよ……」
とめようとすると、本当に入学したての小学一年生か?と言うくらいの圧をかけられながら睨まれた。
「盗みは犯罪なんだよ?軽い気持ちでやるものじゃない」
大輝君は更に続ける。
「ていうか、泣き出したから返してこれで良いだろって?何言ってるわけ?」
「お、お前は関係ないだろ…、引っ込んでろよ…」
「人の話は最後まで聞くものでしょ?最後まで聞いてまだ何かあったら言えば?」
蒼君が口を結んだ。
目には涙が浮かんでいる。
流石にまずいと思い、再び声を出す。
「大輝君、辞めよう?この話は先生がどうにかする。それに、本人達もそれで良かったって言ってるんだから……」
「………そうですか」
随分長いためがあった。
しかし、観念したように下を向き口を開いたのだ。
この年の子はまだ善悪がついていない。
こんなにもはっきりと善悪をつけている子は長年教師をやって来て数人しか見たことがない。
毎度思う。
どうやってこんなにはっきりさせたのか。
私には聞く勇気がない。
だから聞くことはできなかった。
「ごめんね、春野ちゃんと蒼君。怖かったでしょ?」
まるで、大輝君を悪者にするように二人を慰める。
きっと大輝君は間違った事は言っていない。
言っていなかったとしてもこれは‘仕方がない’事なのかもしれない。
善悪とは。
この年にとって難しい問題のはずだ。
誰もが頭を悩ませる問題。
そんな問題を大輝君はゆうゆうとクリアしてしまう。
答えられてしまう。
善悪とは。
人には人の信じる善と悪がある。
しかし、そうでは無いのだ。
善悪とは。
善悪とは、その国の法律やルールで決まっている。
善い行いと悪い行い。
それでも私は問い続ける。
自分の中の善と悪。
善悪とは。
ー善悪ー
4/26/2024, 10:43:04 AM