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#安らかな瞳

―――

澄んだ青空
照りつける太陽
柔く頬を撫でる風

そうして、己に視線を突き刺しているこの男

どう言う訳なんだか説明が欲しい

...確かに、俺はこの男を拒絶した筈なのだ
しかも、両手で数えるのが億劫な程に

大抵の奴は、まだ数えられる範囲内で俺の視界から消えていった
だと言うのに、どうだろうか

この男は今「屋上でサボるって、やっぱり漫画とかと考える事は同じなんだな」とか呑気な事を言っている

此奴と居ると、胸がモヤモヤする

なんなのだ、この男は

「なぁ、俺の話聞いてる?」
「聞いてねぇよ失せろ馬鹿」
「少なくともお前よりかはオツムあると思うぞ」
「......ッチ」
「はい舌打ちカウンター十二〜、なんだ?チョコ持ち歩くくれぇ好きなのに糖分不足か?」

なんだそのカウンターは。
つか糖分不足じゃねぇよ、お前のせいだわ
なんて聞けばまだ突っかかられそうな気がしたから辞めた

「...つーか、センコーがこんな所で油売ってて良いのかよ」
「俺担任でもねーし、オメーの指導っていう大義名分があるから良いの」
「指導じゃなくてウザ絡みにしか見えねぇんだが」
「素直に指導して聞くタマなのか?」

欠伸混じりに言われたが、俺は黙ってしまった

下手に言い返せば揶揄わられるし
肯定したとて同じこと

ムカつく事だが、段々この男の事が分かってきたような気がした

「黙っとるつーことはイエスつーことだな」

...嗚呼、やはり憎まれ口の1つでも叩くべきだったか
何処かで聞いたことのある台詞を聴き、そんな事を思った

「.........なんで俺に構う」

色々言いたい事を引っ込めていたら、そんな疑問を吐いていた。

中学校からこんな調子を拗らせて
目を掛ける、と言う名の点数稼ぎも減ってきて
静かになった、と思えてきた所だったのに

花粉のウザイ季節にやって来た此奴が来てから、何もかも狂った

ここ数ヶ月毎日、此奴は俺の元に来た
他のセンコーのように諭される事がない代わり、根掘り葉掘り質問攻めを受け。
何だといつもの様に凄めど、何処吹く風とかわされる

点数稼ぎにしては随分だなと言えば、「今のとこテスト0点野郎に言われたかねぇ」と言われるし

三十路手前のおっさんが、一体なんなんだ


普通嫌だろう、こんな面倒くさい生徒なんざ
嫌になるだろう、あんだけ拒絶したんだから
...嫌になれよ、俺は一人で良いんだよ


なんて、そんな事を何度思っただろうか

「花粉って辛いよな、俺も嫌なんだよ」
「は?」
「んで、俺まだおっさんではないから」
「っ」

心の中だけと思っていたが、どうやら此奴に聞こえるように喋ってしまったらしい

「...だから」
「お前に構う理由なんざに 、大層な理由はなぇよ」

勢いをつけ身体を起こし、彼奴は向かい合うように胡座をかいた

「悪くいやぁ自己満だ。俺も別に、時間削ってお前の相手に足を向けてる訳じゃねぇしな」

嘘つけ、学校に来なけりゃ施設にまで来るくせに
態々、俺用ノートとか言うのを持ってくる癖に

「それと、同情なんて生易しいもんとは一緒にされたかねぇな。俺ァただ」

そこで一度区切ると、ジッと俺の顔を覗き込んだ
その目は死んだ魚みてぇなのに、何故だな芯があるように感じた

「お前が本気で拒絶しない限り、俺はお前に会いに行くからな」

パチッと、心に火花が散った

本気じゃない?そんな馬鹿な
なんて言葉は直ぐに彼方へ飛んでいった


『なぁお前、んでそんな隅っこに居んの?好きなの?』
『...んだおっさん、うるせぇぞ』
『うわ、腑抜けた面ってはよく言われてるけどさ、初対面でおっさんはねぇだろ』


ふいに、昔の事が頭を過ぎった
嗚呼、そう言えば。
最初に俺を見つけてくれたの、この男だったか

そう至った所で
少し前から感じていたモヤに名前をつける事ができた

嗚呼、何を小さいことで悩んでいたのだろう

「あ、やっぱこう言うのウザイって言っちゃう?だが俺は諦めが悪――」

「好きだ」

「......えなに、急に愛を叫びたくなったのか?地球にラブユーってか?」

何とかちゃかそうとする男の両肩を掴み、今度は俺から顔を近付ける

珍しく大きく見開かれた彼奴の目に太陽が映り、少し輝いて見えたのは錯覚だろうか

まぁ、今はどうでもいい

「お前が好きだ」

茶化しタイムが始まる前に、伝えてしまいたかった

「なぁ、笠霧」

俺はここで初めて、こいつの名前を呼んだ様な気がした


この時の俺は、どんな顔をしていたのだろうか

3/14/2026, 1:08:29 PM